タイの会計事情(2)

タイの会計事情(2)

この仕事をして最初にとまどったのが、「アカンタント」という言葉です。経理マンという日本語はあっても、アカンタントという言葉は日本語にあるのかどうか、それは丁度、エンジニアという日本語がないのと同じと思います。アカンタントという用語は、一種のプロフェッショナルである、という意義をもっている気がいたします。例えば世界会計士連盟の「会計士」は、単にアカンタントと英語で書かれております。ぼくらが普段使う企業用語の経理屋とは、だいぶ、世界が違うようです。

現在、新卒のアカンタントの初任給は、1万5千バーツからといいます。場合によっては、2万バーツだったりもします。だいたい、1991年、VATが導入されて以来、優秀なタイ人アカンタント(クラークではありません)の給与が急激に高くなりました。さらに、2000年の新会計法の施行で、会社は原則的に会計学士を雇用しなくてはならなくなり、また、給与が上がったようです。

付加価値税制(VAT)の導入以来、タイにおいても近代的な複式簿記による会計システムの重要性が、日系企業だけでなく、タイ・プロパーの企業にも広く再認識されるようになってきたと思います。付加価値税法(歳入法典の一部)は、企業の会計をガラス張りにすることから、所得税(個人所得税及び法人所得税)の捕捉率を高める効果があると言われます。例えば、法人所得税においては、企業会計は一年に一度決算するだけで足りる建前になっておりますが、付加価値税制は、企業の内部統制に必要な月次決算資料に近い「付加価値税のための台帳」の整備を求めており、記帳は取引日発生以後3日以内が原則となっています。

アカンタント給与の高騰の原因のほとんどは、付加価値税制の導入と同時にタイ・プロパーの企業が会計学士を高給与で雇用しだしたこと、及び欧米企業がこぞって雇用しだしたこと、にあるようです。従って、従業員50人程度の業態でも、一定水準の経理を行うためには、最低3名、決算全般担当者、売掛金買掛金の管理者、出納業務担当が必要となるものと思われます。そしてこの3名に係る人件費は70、000バーツを下らないでしょう。

給与もさることながら、アカンタントの知識の質も、問題と見ます。まず、税法に暗い。歳入法典の原文を読んだ経験のあるアカンタントは、まず、いないと思います。もし、読者がタイ人アカンタントを雇用しているならば、例えば、日本人の会社負担の家賃が、当該日本人の所得税の課税範囲であるかどうかをまず質問し(大体答えられるでしょう)、次に、その規定は税法のどこに書いてあるかを聞いてみてください。つまり、雇用所得の定義条項がどこか、といった基本的な条文でも探せないのが一般でしょう。

つぎに、数学に弱い。2/5+8/3の計算ができるかどうか。Y=2Xのグラフが描けるかどうか。結果として、原価計算、とくに原価差異の処理などは、大変だと思います。

AEC(アセアン経済共同体)が2015年末を目途に誕生する運びですが、このAECに関してタイで問題となっているのが、アカンタントです。もっとも、タイ語での試験が義務付けられると予想され、一定の障壁があるので、タイ人アカンタントの特権は簡単には崩れないかもしれません。しかし、アセアンの他の国には大勢の中国系のアカンタントがおり、彼らは、タイ語を簡単に習得するかもしれません。だとすると、今が、タイ人アカンタントのこの世の春なのかと疑われます。

なお、この結びは、他人ごとではなく、TPP=環太平洋戦略的経済連携協定の実施後の日本人公認会計士にとって、同じことが起きるかと怪しみます。

2012年形部記す

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