タックス・ニュース 第233号 2016年5月号

タックス・ニュース 第233号 2016年5月号

トピックス

複数のBOI免税恩典事業を有している場合の繰越損益の計算方法についての最高裁判例~租税法律主義は守られているか~

  • さる5月16日に判示された最高裁判例、これは、ある大手日系企業メーカーと歳入局との長年に及ぶ、主に、複数のBOI免税恩典事業を有している場合の繰越損益の計算方法についての論争について、歳入局の逆転勝訴となったものである。
  • もともとの争点は、それほど難しいものではなく、例を使って話をすれば理解しやすいと思う。例えば、企業が免税恩典事業XとYを持っていたとする。例えば、2015年のX事業の課税所得は100であり、一方、Y事業の課税所得はマイナス80であったとき、2016年度に繰り越すべきいくらとなるかが、争点であった。100の課税所得と80のマイナスの課税所得(損失)とは、相殺して計算すべきであるから、この場合は、相殺すると損失がなくなるので(100-80=20の課税所得。ただし、この課税所得は、免税恩典の事業から生じたものなので、課税は生じないこととなる)、繰越損失は0であるとする意見(これは歳入局の主張である)、もう一つは、相殺する要はないと考え、繰越損失は80であるとする意見(これが日系メーカーの主張。なお、相殺しないため、X事業は、そのまま100の課税所得を有するが、免税恩典なので、課税は生じないこととなる)の争いである。
  • 日系企業の中には、後者(不要説と呼ぶ)の思考で計算をしているところがあると怪しまれ、その場合には、前者の方法(必要説)、つまり、相殺するという方法で計算をし直すことが求められるので、注意されたい、というのが、多くのコンサルタントの助言であろう。
  • それはその通りかもしれないが、筆者は、この判例はあまりに唐突な感じが否めず、最高裁判例を縛るものは、当該当事者だけであるから、その計算適用次第は、依然として論争の対象であるとも言いたい。しかし、その一方で、この最高裁は、特殊性を持つ。いくつかの格別な論点に決着をつけており、広く他の事例にも影響を与える内容を持つためである。結果、将来に相当引用される可能性のある重要判例とみるべきであろう。たとえが悪いだろうが、言ってみれば日本における永山基準を判示した昭和58年の最高裁判例のような重要性を持つものと私見する。
  • 本件最高裁判決の特殊性は、一口で言えば、租税法律主義をまったく考量していないという点にある。租税法律主義は、財産権と相まって資本主義と民主主義の根幹をなすものといわれる。タイでも、これは、ほとんどの憲法で規定されてきたものであるが、現在の暫定憲法上では、置かれていない。当然ながら、不要説の方が、納税者にとって有利である。繰越損失は、将来の課税所得を減ずる効果をもつからである。
  • 本件について、税務裁判所判決(不要説)、租税委員会裁定(必要説)、法制審議会(不用説)と、従前より意見が分かれていたが、いずれも、本件の計算方法について、法はその規定を置いておらず、よって、解釈論となる点、議論がない。
  • このような場合、租税法律主義から、いたずらに税法解釈に拡大解釈は慎むべきであり、納税者にとって有利に解すべきであると、筆者は習った。ところが、必要説を最高裁は採用したのである。その判決の理由の中には、租税法律主義の議論は見られない。これは、驚くべきことと筆者は思っている。
  • 納税者にとって有利に解すべき、といった趣旨の考えは、税務裁判の判決の中では、民商法典を準用して述べられているが、いわゆる財産権と表裏する租税法律主義の思考とは異なるアプローチであった。
  • 必要説を支持する最高裁判決の理由の構成は、主に次のとおりである。(通称)BOI法は、課税所得の計算を定めるものではない⇒課税所得の算定方法は、歳入法典が規定するものである⇒よって、BOI法の第3条の「他の法律との矛盾がある場合のBOI法の優先適用規定」は、考慮する必要がない。つまり、歳入法典規定によれば、当然にして必要説に傾くものといった体裁であるが、その細部の検討は示されていないのである。したがい、歳入法典の適用⇒歳入法典第条13の7「租税委員会裁定の権限」⇒租税委員会裁定No.38/2552で必要説を採択、と解するほかはないと私見する。細部は省くが、これでは、論理構成は強いとは、決して思われないのである。
  • この構成での副産物的な重要な思考は、課税所得は、BOI法には規定されず、あくまで歳入法典によって規定されるものである、とするところである。免税恩典事業を営むメーカーにあっては、BOI免税恩典の計算方法について、歳入局からというよりは、むしろ、BOIからの指導を受けていることが多いかと察するからである。
  • 尚、実は、本件の事案中には、関係するほかの争点もある。一つは、召喚状の示達なくして過少申告に対しての賦課決定が可能であるか。もう一つは、VATの還付請求が行われていて、追徴課税が生じるとき、この(当局に対しての)債権と債務は相殺できるのか、という論点である。
  • 前者について、本件では、歳入法典第19条の適用はなく、第18条の適用になり、よって、召喚状の発行は不要であると判示されたが、実にその理由付けが大変に分かりづらい。後者については、歳入法典第12条の適用ありとして、歳入局長の判断次第で滞納税金を確保するための財産の差押さえとして、還付金を差押えることができる、つまり、相殺ができるものと判示されている。
  • 以上、本事案、最高裁判例は、問題が少なくないものとみる所以である。

最新法令一覧表

重要法令・ルーリング全訳・解説

仏歴2559年勅令(第596号)

体育及びスポーツ促進のための慈善寄付にかかる所得税、付加価値税、特定事業税及び印紙税の免税措置

仏歴2559年勅令(第598号)

仏歴2559年勅令(第602号)

特定の産業に係る事業を中小企業に対する法人税免税措置

仏歴2559年勅令(第604号)

資本的支出又は資産にかかる増設、変更、拡張もしくは改良のための支出であって、その支出が現状維持のための修繕ではないものに該当する支出にかかる所得の法人所得税免税措置

相続税に係る歳入局長通達(第4号)

相続税に係る加算税の猶予又は減税についての規則及び条件

所得税に係る歳入局長通達

スポーツ支援及び奨励のための寄付にかかる所得税、付加価値税、特定事業税及び印紙税の免除についての規則、手続き及び条件

付加価値税に係る歳入局通達(第209号)

歳入法典84/4条の定めに従いVATの還付を受けることができる。タイから出国し、かつ、タイ国外に持ち出すことを目的とする外国への旅行者へ物品を販売する登録時業者から遵守すべき要件を定める通達

歳入局長通達

技術及びイノベーションに係る研究開発申請者に対する規則、手続き及び条件

歳入局長解説

歳入法典に定める租税に関する実務の免除及び支援を規定する法律(緊急勅令)に基づく歳入法典に定める租税に関する実務の免除または支援(第4号)

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