タックス・ニュース 第235号 2016年7月号

タックス・ニュース 第235号 2016年7月号

トピックス

SME基準について

SME基準の本質

  • 初めに
    • いよいよ2017年1月1日以降に開始する会計年度から、中小企業向け国際財務報告基準(IFRS for SMEs、本稿では、SME基準と呼ぶことにします)の適用が求められることに、ほぼ、なりました。しかし、現時点でも、SME基準のうち、どの範囲を適用除外とするのかといった細かな議論は、未定のようです。
    • SME基準は、日本では未採用のものです。ですから、日本人経営者にとっても、タイ人アカンタントにとっても、いろいろ不安だろうと怪しみます。そこで、タックス・ニュースにおいて、SME基準に関する連載をしてみようと考えました。
    • 聞いてみると、タイの会計学部での教育は、(日本でも同じと思われるのですが)おおむね、米国基準であることが多いようなのです。それは、主な大学で教鞭をとっている先生が、米国留学組であることが一因でしょう。なかなか、国際財務報告基準に関する情報が、タイでは手に入らない嫌いがあります。現に、SME基準のタイ語訳はまだできていないと仄聞します。そこで、本稿は、タイ人スタッフにも読んでいただきたいと考え、タイ語訳もつける予定です。
  • SME基準成立の沿革
    • SME基準は、極めて政治的な産物であると、私は考えております。そもそも、国際財務報告基準に関する趣意書(Preface to International Financial Reporting Standards)には、国際会計基準審議会(IASB~IFRSを作成する団体)の目的として「1セットの高品質な会計基準の開発 (to develop, (omitted), a single set of high quality, (omitted) financial reporting standards)」を掲げています。1セットなのですから、国際財務報告基準のほかにSME基準を作るということは、結局2セットを作っている、と批判されても仕方のないことでしょう。
    • この1セットという用語は大変に強い意味を持っているようです。筆者は、今から15年くらい前に、当時のIASBの山田理事から、次のような話を聞いた覚えがあります。「IASBは、高品質の会計基準を作ることを目的としているが、それは、公会計も、病院会計も、学校会計も、すべてを含む、財務報告に関しての唯一の統合的な会計基準となるべきものです」と。
    • しかし、いろいろな理屈を並べて、IASBは、2009年にSME基準を公表しました。
  • SME基準とNPAE基準(私的会計責任を有する企業に対する会計基準)の相違
    • SME基準は、原則的には、IFRSの参照を必須としていない、それ自身が独立した (stand-alone) 体裁の基準書です。しかし、全く別のものというよりは、完全版IFRS(SME基準では、いわゆるIFRSを、SME基準と区別するために、完全版IFRSという用語が使われている)の要約版、簡便版といった性格のものです。
    • 実際のところ、SME基準の第2章 「概念及び全般的な原則」は、IFRSのフレームワークを依拠して作られていることからも、それが分かります。これは、SME基準は、完全版IFRSと同じ公正価値会計であり、有用性アプローチ(財務報告利用者の利用者の意思決定に有用であることを目的とする会計基準)に立ったものであるという際立った性質を持つものと言ってよいでしょう。また、貸借対照表(現在の用語では「財政状態計算書」と言いますが、ここでは昔の言い方を採用します)アプローチである。つまり、財務報告書で重要なものは、損益計算書よりも貸借対照表である、という考え方に基づいていると言われます。
    • 一言でいえば、SME基準は、「財務報告の利用者に有益であるような情報は、利益情報よりも、むしろ、資産負債などの公正価値情報なのである。したがって、会計においては、公正価値を決定すること=評価が最重要課題である。そのため、利益情報については、当期中に生じた評価差損益情報も含む包括利益が重視される」ような性質を持つ会計基準と言えると思います。
    • 一方、現行のNPAE基準は、公正価値会計というよりは、概ね取得原価主義会計に基づいて組み立てられています(NPAE para1)。そして、有用性アプローチを取りながらも、伝統的な会計理論である真実利益アプローチ(企業を取り巻く利害関係者の利害を調整するため、企業が真実な利益を算定することを目的とする会計基準。つまり、財務報告の直接的な利用者は、外部者というよりは、現在の企業株主であるとする。)も加味しております(NPAE para4.1, 17)。そこから、貸借対照表よりもむしろ損益計算書の方が重要である、という損益計算書アプローチをとる場合が見られます。
    • これらは、SME基準とNPAE基準の大きな、かつ、重要な違いです。
    • たとえば、公正価値会計の典型的な分野である減損会計が、完全版IFRSと同じようにSME基準で規定されておりますが、NPAE基準で採用されていません。
    • 実は、現状、IFRS=公正価値会計と断言できる状態でもないのですが、IFRSが、遥彼方の理想として公正価値会計を狙っていることは明らかだと思います。そのため、SME基準は、一部、取得原価主義を依然採用しています。たとえば、棚卸資産や有形固定資産の当初認識として、取得原価主義が採用されています。また、NPAE基準も、表層的にはIFRSに近い体裁をとっているため、両者において、具体的な会計処理に大きな差はないものとなっています。しかし、両者は、本質又は出発点が違う思考であるので、類似した処理であっても、本質的な意味では大きな違いをもつものであることに留意しないといけないでしょう。
    • 下に、その概念図を書いて見ます。
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複数のBOI事業を有する企業で誤ってBOI事業からの利益及び損失を計算していた企業における法人修正申告及び加算税と延滞税還付申請にかかる期限の延長について

  • BOI事業を複数有する企業でこれまで各BOI事業から生じるの損益が、あるBOI事業は利益があり、あるBOI事業は赤字であるといった場合、2016年5月15日付の最高裁判決で判決された通り、これらを通算して損益を計算するのではなく、それぞれ個別に損益計算を行っていた場合について、歳入局は、法人税修正申告書(PND50)の提出及びもしあれば追加納税を速やかに行うよう呼びかけていました。この点、 2016年6月16日付財務省通達により、2016年8月1日までにかかる修正申告及び追加納税を行った場合は加算税と延滞税を課さないこと、さらにすでに加算税と延滞税納付している企業については2016年8月1日までにその還付申請を行えばこの還付を行うとしていました。
  • この度、この期限が平和秩序協議会議長通達第45/2559号により、さらに2016年8月15日まで延長されました。本通達は2016年7月31日より施行されています。まだ修正申告を行っていない企業は、この期間までに申告しましょう。

最新法令一覧表

重要法令・ルーリング全訳・解説

最高裁判所判決要旨 6826/2557(西暦2014年)

外国法人へのソフトウエア使用許諾にかかる0%付加価値税適用の可否

仏歴2559年勅令(第607 号)

タイの法律に基づいて設立された会社又は法人格を有する組合で、200百万バーツを超えない固定資産(土地を除く)を有していて、200名以下の従業員を有するものが、教育省の認可教育機関で会計のプログラム又は会計学科で学ぶ学生又は大学生に対して経理業務に係る賃金を支払う場合、その賃金の100%に当たる金額に相当する益金が対象となる免税措置

仏歴2559年勅令(第608 号)

タイ金融商品取引法に基づいて設立された不動産投資のミューチュアルファンド、金融機関の問題を解決するための不動産投資のミューチュアルファンド、金融機関の問題を解決するためのミューチュアルファンド及び不動産及び債権のミューチュアルファンドによる物品の販売及びサービスの提供にかかる事業について、そのVATの免除の廃止

投資委員会(BOI)布告 No. ポー2/2559

法人税免税の権利及び恩典を行使するための公認会計士による投資奨励事業の監査に係る方針及び方法

投資委員会(BOI)布告 No. ポー3/2559

電子システム(e-tax)を通じた法人税免税の権利及び恩典に係る方針及び実務

歳入局ルーリング第ゴーコー0702/1172

登録資本金の減資の場合の法人所得税

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