トップアップ課税に係る緊急勅令(仏歴2567年)が公布され、すでに適用年度は開始しているが、その細則がなかなか出てこない。もっとも、同法の第58条でトップアップ課税の対象となる最初の会計年度については、各条に規定する基準日から18か月に延長する旨の規定があり、例えば、日本の親会社が3月31日決算でタイ構成事業体の決算日が12月31日であれば、初回申告・納付期限は2027年9月30日となるから、まだ先のことともいえる。
細則のうちでも特に注目されるのが、、「適格還付可能税額控除(Qualified Refundable Tax Credit:QRTC)」であろう。このトップアップ課税制度は、ご案内のように、多国籍企業グループ(MNE)の年間連結売上高7億5,000万ユーロ以上に対して適用されるものであるが、在タイの日系企業でMNEに属する企業(構成事業体)のほとんどは、製造業でBOI減免税恩典措置を得て、タイで操業していると思われるため、このQRTCの仕組みは、最も興味のあるところであろう。場合によっては、BOIの免税措置よりも、企業にとって有利に機能する可能性があるためである。
さて、タイ政府は、当初、QRTCは、「ターゲット産業国家競争力強化法(2017)」を改正して制定し、その運営をBOIにゆだねる体裁を考えていたと思われるが、最近、QRTC法を新たに制定して、歳入局がその運用をする形に変える可能性が強くなったものとみられる。
その流れの中で、歳入局は、その原案を掲げて広く意見を募集しており、これに応じて弊事務所は、意見書を提出した。その主な内容は以下の通り。
QRTCを補助金のように見てこれを取扱わせることを可能にする第一といってよい要件は、受給要件の充足日から4年以内の申請者に対する現金還付である。しかし、その規定ぶりは、複雑で、この要件が担保されていない嫌いがある。QRTC制度設計は、通常の制度にはあまり見られない特徴を持つ。単にタイ国の内国制度の問題にとどまらず、他国の制度が必ず関係する制度であるためである。そのため、複雑な規定のため適用予見性に欠ける規定ぶりは回避すべきである。他国や投資家に分かりやすい明確な規定ぶりが望まれる。良くも悪しくも、グローバリズムの影響下で、租税とはいえ、単純に国家主権の発露たる租税高権(Tax Sovereignty)を主張できるものではない点に留意したい。逆に言えば、このQRTC制度の法制化は、タイは「法治国家(Rule of Law)」であることを広く国際社会に訴える格好の機会なのである。そして、行政実務実践において、歳入局に本制度を的確に運用できるだけの人員獲得のための予算を与えることも考慮すべきである。