タイの移転価格税制の最近の動向(2018年3月現在)

タイの移転価格税制の最近の動向(2018年3月現在)

移転価格税制にかかる法案は、現在、国民立法評議会連携委員会の審議は終了し、国民立法評議会(NLA:The National Legislative Assembly of Thailand (สภานิติบัญญัติแห่งชาติ; Sapha Nitibanyat Haeng Chat) で審議中であることは、多くの方がご存知であると思います。

当局の高官(本件担当者)のお話しを直接うかがう機会があり、それによれば、提出したドラフトが大きく変わる可能性があるため、確実なことはほとんど言えない、NLAの中には、民間の企業代表者もいて、様々な圧力がかかる、とのことでした。もっとも、恐らくこうなるであろう(見通し)というレベルでいえば次の通り、とのことです。

移転価格税制の適用開始時期~これは当初2017年1月1日以降に開始する会計期間から適用される体裁でしたが、恐らくは、2年延びる。つまり、2019年1月1日以降に開始する会計期間からの適用となり、実際の移転価格にかかる業務(法人所得税申告書の附表の作成)は、一番早くて、2019年1月1日から2019年12月31日に至る会計期間の会社、つまり、2019年12月31日決算の会社が法人所得税の申告書提出期限、2020年5月の下旬ということになる公算が強いとのことでした。つまり、2年遅れることになりそうです。その理由は、現在、NLAは選挙にかかる法規制の審議で多忙を極めており、移転価格税制にかかる法案の審議が終了するのは、早くて今年(2018年)の中盤以降と思われること、にあるようです。

  • 適用対象の企業(1)
    ネットなどで散見される表現、例えば「その事業年度の売上高が3,000万バーツ以上の会社が対象」は、誤解されやすい表現です。この移転価格税制の適用となると、当該企業は、いくつかの義務が法的に課されることになりますが、では、その適用となる企業の規模は、いわゆる収益や収入のすべてが入る(文理上は外貨換算益も含まれると思われます)が、ターゲットとなる会計期間において、一定以上の金額となるか、による。その金額、つまり、閾値ですが、それは、財務省が省令で決める、ただし、3,000万バーツ以上の範囲で決められる、言い方を変えれば、閾値は、3,000万バーツ以上で決められなくてはならない、というのが、現状、伝わるドラフトの規定ぶりです。
  • 適用対象の企業(2)
    例えば、収入5,000万バーツ以上である企業が対象となる、と省令で決めれば、収入が4,000万バーツである企業は、移転価格税制の適用対象の外となります。しかし、省令で、収入2,500万バーツ以上の企業を対象とするといった規定は、不可ということです。つまり、「その事業年度の(その他の収入を含む広義の)売上高(によって適用対象の閾値を省令で決まるが、当該閾値は)が3,000万バーツ以上(の金額で決められなければならない)の会社が対象」。もっと簡単に言えば、「(現在のドラフトでは、もっとも適用範囲が広げられた場合で)その事業年度の売上高が3,000万バーツ以上の会社が対象」ということです。
  • 適用対象の企業(3)
    NLAでの審議の大きな論点は、ここにあるようです。現在のドラフトは、言ってみれば、財務省に、収入の3,000万バーツ以上の企業を対象とする権限を付与していると言えるのですが、この閾値の最低線自体が高すぎる、もっと、財務省の権限を縛って、例えば、省令で決める閾値は、最低で1億バーツくらいにすべきではないか、さもないと、現状の規定ぶりでは、財務省限りの決定で、たかだか収入3,000万バーツ以上である企業であっても対象となり、中堅企業の負担が大きすぎる、という実業界の声があるようです。つまり、「その事業年度の売上高が3,000万バーツ以上の会社が対象」というのは、現在のドラフトが全く変更なく通過し、かつ、財務省が、移転価格税制の適用対象を最大に広げるという意思決定をしたときの話なのです。そして、その可能性は大変に薄いでしょう。
  • 移転価格税制対策を今どうすべきか
    上記から、現状、移転価格税制について格別な対策を急ぐ必要はないといえます。もちろん、関係会社間の取引価格を、恣意的な価格付けにすることは避けなくてはいけません。しかし、いわゆる中堅企業であれば(年間収入が数千万バーツ程度)、専門家と称するコンサルタントの口車に乗って、多額の予算をとって書類作りをする必要は、まだ、ないと言えると思います。

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