トピックス
中小企業向け国際財務報告基準について(適用すべき会計基準の変更)
- さる6月30日、タイ職業会計人連盟は、公認会計士向けのセミナーを行い、非公開企業用タイ財務報告基準(TFRS for NPAEs、以下、NPAE基準と略します)を中小企業用のタイ財務報告基準(TFRS for SMEs 以下、SME基準と略します)に変更する件について、その状況説明をおこないました。
- ここでは、そのセミナー資料に基づいて、現状を説明したいと思います。
- ポイントは、おおよそ次のように言えると思います。
- 適用するSME基準は、中小企業用の国際財務報告基準の2009年度版ではなく、最新の2015年度版とする予定である。
- 適用開始は、2017年1月1日以降に開始する事業年度からの予定。
- とは言っても、全面適用が同年から開始されるものではなく、いわば部分適用であり、その後、徐々に全面適用とする計画である。
- しかし、タイ語翻訳自体も完了していない現状から、そもそも2017年1月1日以降適用についても、筆者は、本当に可能なのか、延期があるかもしれないと怪しんでいます。
- 適用する際に、公的説明責任の観点から企業を2つに分類し、責任の強い企業と弱い企業では、各々異なったSME基準の適用の範囲としている。タイの日系企業の多くは、公的説明責任の強い企業、NPAEs Complexに入ると思われ、その点、比較的に広い部分のSME基準の適用が求められることになるでしょう。
- SME基準の適用に際しての分類は、現在、上記のように公的説明責任を念頭において考えられていますが、当初は、資産、資本金、収入、従業員数といった規模による分類が検討されていた経緯もあり、確定したものではないとされています。
- ただし、今回予定されているSME基準の適用は、全面適用とは程遠いものといってよいと思います。たとえば、NPAEs Complexであっても、35章からなるSME基準のうち、13個の章については、2017年から先、2-5年の適用猶予が認められております。そして、これら猶予される章に規定される会計処理や開示は、公正価値会計を採用する(と見られる)SME基準の中でも、公正価値に直接関係する重要な箇所です。
- 適用猶予を利用するならば、これに関する会計は、猶予期間の間はNPAE基準が使用されることになるようです。これはこれで、大変に複雑な会計体系になるといってよいでしょう。NPAE基準は、公正価値ではなく、取得原価主義を採用した基準だからです。
- NPAE基準の中に「減損会計」が規定されているといった誤った理解をしている人が少なくないようですが、取得原価主義会計の中で、減損会計を考えることは無理です。減損会計の回収可能価額の一つとして「使用価値」が掲げられますが、これは、将来キャッシュフローの割引現在価値であり、公正価値会計に他なりません。減損に類似した概念がNPAE基準に規定されますが、これは、いわゆる低価法にすぎません。
- この現在割引価値を理解するタイ人アカンタントは少ないと怪しみます。公正価値会計であるSME基準に従って決算できるタイ人アカンタントは、わずかでしょう。(日本でもそうですが)どのように教育していくか、これは大問題です。
- しかし、日系企業で、親会社が上場企業であるような場合、その連結決算上、日本の実務対応報告18号に沿った会計処理が求められますから、日本の親会社は、適用猶予を利用することなしに、SME基準の全面適用を求めるかもしれません。
- そこで、タイ人にもわかるように、日本語タイ語の両方で、弊事務所発行のこのタックス・ニュースで、SME基準の各章を順次、説明していこうと思っています。
- 企業は、会計基準の適用に関して、以下の3つのグループに分別されます。
- NPAEs Complexは、SME基準の適用が求められますが、次に掲げる章に規定されるもの、及び章の一部に規定されるものは、直ちにその適用が求められるものではなく、下記のように一定の猶予期間が認められています。
- NPAEs Non-Complexは、SME基準の適用が求められますが、次に掲げる章に規定されるもの、及び章の一部に規定されるものは、その適用が免除されます。なお、免除されるSME基準に係る分野については、NPAE基準が適用されることを、現在、想定しているようです。
- 以上からわかるように、NPAEs Complex にしても、NPAEs Non-Complexにしても,現状は、部分的な適用といった体裁です。
- TFRS,TFRS for SMEs, TFRS for NPAEsの相違要約を以下に掲げます(これは、セミナーで頒布されたものを基礎に作成したものです)。もっとも、IFRSはMoving Target といわれるように、毎年変遷していますし、SME基準も同様ですから、あくまで、現状時点での相違点と理解してください。
– | 企業 | 財務報告書 |
---|---|---|
水準1 | PAEs | Full TFRSs |
水準2.1 | NPAEs Complex | TFRS for SMEs(複雑ものは2-5年先まで延ばす) |
水準2.2 | NPAEs Non-Complex | TFRS for SMEs(一定の規定を免除する) |
この表で、 NPAEs Complexというのは、その中小企業自体が、子会社、関係会社、ジョイント・ベンチャーであるような場合、又は子会社、関係会社、ジョイント・ベンチャーを持つような場合を言います。日系企業の多くは、日本やシンガポールに親会社を持つ、つまり、子会社または関係会社でしょうから、これに該当します。そうでない中小企業は、 NPAEs Non-Complexとして分類されます。これらは、2017年1月1日以降開始する事業年度から適用することになります。
グループ | 章 | 準備ができるまで期間 |
---|---|---|
1 | 第9章 連結及び個別財務諸表 | 2019年(2562年仏暦)2年間 |
第14章 関連会社に対する投資 | ||
第15章 ジョイント・ベンチャーに対する投資 | ||
第19章 企業結合及びのれん | ||
第33章 企業及び関連当事者についての開示 | ||
2 | 第11章 基礎的金融商品 | 2022年(2565年仏暦)5年間 |
第12章 その他の金融商品に関する事項 | ||
第22章 負債及び資本 | ||
第30章 外貨換算 | ||
3 | 第20章 リース (TFRIC4と同じ内容の分だけ) | 2019年(2562年仏暦)2年間 |
第23章 収益(TFRIC13と同じ内容の分だけ) | ||
4 | 第29章 法人所得税 | 2019年(2562年仏暦)2年間 |
第34章 専門的活動 |
章 | 表題 |
---|---|
9 | 連結及び個別財務諸表 |
11 | 基礎的金融商品 |
12 | その他の金融商品に関する事項 |
14 | 関連会社に対する投資 |
15 | ジョイント・ベンチャーに対する投資 |
19 | 企業結合及びのれん |
20 | リース(TFRIC4と同じ内容の分だけ) |
22 | 負債及び資本 |
23 | 収益(TFRIC13と同じ内容の分だけ) |
26 | 株式報酬 |
27 | 資産の減損(割引現在価値計算の部分) |
29 | 法人所得税 |
30 | 外貨換算 |
31 | 超インフレ |
33 | 企業又は関連当事者についての開示 |
34 | 専門的活動 |
– | TFRSs | TFRS for SMEs | TFRS for NPAEs |
---|---|---|---|
1.財務諸表の表示 | |||
包括損益計算書 | 作成 | 作成 | 不要 |
キャッシュ・フロー計算書 | 作成 | 作成 | 選択 |
3期分財務状態報告書 | 作成 | 不要 | 不要 |
廃止事業 | 表示 | 作成 | 未決 |
関係会社間取引 | 表示 | 表示 | 選択 |
2.企業結合 | |||
子会社に対する投資 | 連結 | 連結 | 取得原価 |
企業結合 | PPA | PPA | 未決 |
企業結合の原価 | 費用 | 企業結合の原価 | 投資原価 |
共同支配企業に対する投資 | 持分 | 選択 | 取得原価 |
3.資産 | |||
再評価PPE表示 | 選択 | 選択 | 禁止 |
現在価値IP表示 | 選択 | 選択 | 禁止 |
売買目的固定資産 | TFRS5 | 徴候減損 | 固定資産 |
開発費 | 資産 | 費用 | 資産 |
耐用年数が不確実な無形資産 | 徴候テスト | 10年以内 | 10年償却 |
借入金資本利子の適格資産 | 資産化 | 経費 | 資産化 |
資産の減損 | 徴候/毎年テスト | 徴候次第 | 回復が認められない場合の低価法 |
4.負債 | |||
法人所得税 | 繰延法 | 繰延法 | 選択 |
従業員給付に係る引当金 | 保険数理士の計算 | 保険数理士の計算 | 選択/最善の見積 |
株式報酬 | TFRS2 | 範囲内 | 範囲外 |
5.収入及び費用 | |||
不動産販売収益 | 譲渡時 | 譲渡時 | 3つの選択 |
カスタマー・ロイヤルティ・プログラム | 公正価値 | 公正価値 | 範囲外 |
政府補助金 | TAS20 | 範囲内 | 範囲外 |
契約にリースが含まれているかの判断 | TFRIC4 | 範囲内 | 範囲外 |
6.金融商品 | |||
金融商品 | TAS105,107 | 複雑 | 範囲外 |
ヘッジ会計 | 適用しない | 範囲内 | 範囲外 |
公正価値の測定 | TFRS13 | 費用対効果 | 売却可能金融資産(AFS)のみ |
7.その他 | |||
機能通貨(外国通貨の会計) | 規定あり(バーツではない可能性) | 規定あり(バーツではない可能性) | バーツのみ |
超インフレ状況 | TAS29 | 範囲内 | 範囲外 |
鉱物資源の探査及び評価 | TFRS6 | 範囲内 | 範囲外 |
サービス委譲契約 | TFRIC12 | 範囲内 | 範囲外 |
農業 | 公正価値/果実生成型の生物資産原価モデル又は再評価モデル | 公正価値 | 範囲外 |
複数のBOI事業を有する場合の修正申告について
- 財務省は、先月歳入局が逆転勝訴した最高裁判決を受け、複数のBOI事業を有する企業が、これまでBOI事業から生じた損失について当該複数のBOI事業を通算して計算せずに単独で損失計上して法人税免税恩典終了後にそれらを繰越欠損金として損金計上していたなど、歳入局を勝訴させた最高裁判決から見れば誤った法人税申告を行っていた場合、修正申告をしても加算税及び延滞税を課さない特別措置を通達しています。
- かかる修正申告が認められる期間は、2016年6月15日から年8月1日までとされていますので、これまで誤った税務申告を行っていた企業は、速やかに修正申告を行ったほうが良いでしょう。またすでに以前修正申告もし加算税及び延滞税を納税している企業の場合、当該加算税及び延滞税も還付してもらうこともできます。
- 本通達は本誌にも掲載しておりますので詳しくはそちらをご覧ください。
最新法令一覧表
重要法令・ルーリング全訳・解説
最高裁判例要旨1971/2537(1994年)
外国法人の代理人又は仲介者の要件
所得税にかかる歳入局長通達(第266号)
歳入法典第65条の3(5)に基づく資本的支出又は資産に係る増設、変更、拡張もしくは改良のための支出であって、その支出が現状維持のための修繕ではないものに支出された所得にかかる法人所得税免税のための規則、手続及び条件
所得税にかかる歳入局長通達(第268号)
国内旅行のための飲食、旅行ガイド及びホテルの費用として支出した金額にかかる法人所得税免税のための規則、手続及び条件
歳入局規則 第トーポー259/2559号
歳入法典第40条に定める課税所得の支払者に対して源泉徴収義務の命令
財務省通達
歳入法典に定める申告期限の延長について
歳入局ルーリング第ゴーコー0706/5932
外国人専門家のための個人所得税、法人税及び付加価値税(VAT)